空の色が、赤く染まり始めた。
私は風紀委員のアイツを教室で待つのが日課になりつつある。いつもは空を眺めているか、宿題を解いていた。しかし、今日は少し違う。手にしているのはたった一枚の紙。紙には…『進路希望調査書』。そう書かれていた。
この年になって、行きたい学校が見つからないのはやはり珍しいのだろうか。クラスで先生が記入する時間を設けたが、私と数名の他は書き終わり提出に至っていた。
(前日に先生が予告していたのもあるが)
私は何となく、黒板の前に立っている。何かを書きたいわけでもなく、クラスを見たいわけでもない。ただ本当に、何となくだったのだ。
「進路希望…ねぇ」
自分の他、誰もいない教室はポツリと呟いた言葉も反響する。
私は目の前にある白いチョークをとり、黒板に字を書いた。私の悩みの種、≪進路希望≫と。
そして小さく溜め息をつくと、同時に教室のドアが開く。
「…何やってるの?帰るけど」
「あっ、ちょっ待って!!」
そう言葉を返すと、彼は教室に入ってきた。私がいたところまでくると、黒板を眺める。少しの間を置くと口を開いた。
「進路希望調査書で迷ってるんだ」
「そ、そうだけど…」
「ふーん…」
雲雀は私が置いたチョークを持つと、何か書き出した。でも私が見る前にさっと消してしまう。
「ちょっと、何書いたの?」
「そんなのいいでしょ。ほら、置いてくよ」
歩き出す雲雀の後ろ姿を私は追いかける。
帰り道は、長いようで短く感じる。私はその間、ずっとこの黒板の内容を問い詰めることに決めた。
黒板に書かれた
進路希望
(僕の嫁になるんじゃないの?)