「はじめまして雲雀恭弥」
暗い、暗いこの廃墟。私は此処に、骸様の命令で雲雀恭弥を捕獲しにきている。久しぶりの骸様の命令。失敗する事は許されない。
「君、だれ?僕はここに六道骸が居るって聞いてきたんだけど」
「そうなのですか?でも此処には私しか居ませんよ」
「へえ、僕をだましたんだ」
「そうですね。私がだましました」
ガキィイン......と金属が交わる音が響く。雲雀恭弥はなぜか笑っていて、その目には骸様に似た何かを感じさせる。実際私は骸様がなぜ雲雀恭弥を捕獲しろ、なんて命令を下したのか知らない。いや、知る意味もない。骸様の考えている事がわかるのは骸様だけ。私は、その人の駒。
「君の名前は?」
「........、です」
なぜ雲雀恭弥は名前を聞くのか。なぜ私はそれに答えたのか。雲雀恭弥が名前を聞いたのかはわからない。だけど、私がそれに答えたのは......
この人は骸様に、似ている。
瞳の中に、骸様と同じ物が宿っている。それは恐ろしい物であり、私にとっては唯一の光。あの闇から救ってくれた、骸様の尊敬そして、感謝するべきである心。なぜこの男なんかに宿っている? そして、なぜ私はそれに、おびえている?
「六道骸を出しなよ」
「無理、です」
「......じゃあ、君が六道を出す気になるまで君で遊ぶ事にするから」
怖い、なんてとうの昔に棄てたとおもってたのに。綺麗、なんて感情骸様にしか向ける事などないと思ってたのに。この男はこうも私の頭をかき乱すのか!
「私は貴方を傷つけにきたんじゃ有りません」
「だから、君は手を出さなかったらいいんでしょ」
「貴方相手ではそれも出来そうに有りません」
「嬉しい事言ってくれるね」
そう言って、にやりと笑う。私は安堵した。(ああ、この笑みは骸様じゃない。この人は骸様じゃない!)かすかな安心感の中、感じたのは先ほど私の頭をかき乱したあの感情。
この人は綺麗に戦う。この人は恐ろしい程の殺気を放つ。この人の瞳は骸様の瞳と似ている。だけど骸様の瞳と似ているだけで、骸様から感じれる暗く恐ろしい心は、この人のそれをおおきく上まっている。それがまた、私の心をかきみだす。(頭じゃなく、心の方)なぜかなんてもう考えられない。この人は強い。この人は怖い。だから、私もこの人をを傷つけなくては成らなくなってしまった。
「本当、六道に忠実なんだね」
「......恩、人.....で、すから」
「でもいい加減、六道出してくれない?」
やっぱり、雲雀恭弥は強かった。強すぎた。ランチアさんや犬、千種あわせても勝てないかもしれない。それほどこの人は強い。そして、迷いがなさすぎる。この年齢では何かしら人を殺すまで傷つけるのに迷う筈だ。雲雀恭弥にはそれがない。(このままでは負けて......いや、殺されるかもしれない)私にはもう武器を握る握力すら残っていない。立って、雲雀恭弥を見る事しか出来ない。
「武器落ちたよ」
「持てない......から」
「六道の場所教えてよ」
「嫌」
「........君はなんで六道といるの?」
驚いて閉じかけた目が開く。雲雀恭弥がこんな事聞いて何になるというのだ?と疑問に思ってしまった。雲雀恭弥は私を見たまま、私に近づいてきた。嫌だ。近づくな。そんな感情をもっていても、体はいう事を聞かない。ついに、私と彼の距離は1メートルを切ってしまった。
「近づく、な」
「なんで君は」
「嫌だ......!」
「六道と一緒に居るの」
「っそんなの、当たり前じゃない!私は骸様に助けられた!だから私は骸様に従う!」
心 が 、 壊 れ る 。
「ならなんで、六道の事を聞くとつらそうにするの」
つらそうになんかしてない。そうでしょう骸様。私いいこでしょう。骸さま。私、ちゃんと笑えてるでしょう。むくろさま。私の世界の中心はいつも貴方だった。貴方でなければ、私は壊れると思った。私は壊れたくなかった。貴方に壊されたくも、なかった。
雲雀恭弥の綺麗な黒髪が揺れる、と思ったら私は雲雀恭弥に抱きしめられていた。雲雀恭弥は何をしている?私に何をしている?思考がにぶる。この男によって鈍くなっている。このぬくもりはなんだ?この感じた事のない、温かな、ぬくもりは。
「わからないけど、僕は君が傷つくのが嫌みたいだ」
なにを
いっているんだろう。
私をさんざん傷つけといて。さっきまで殺す程の殺気を出しといて。今更なにを。思考が本当に途切れそうだ。頬に冷たい液体が流れる。視界がぼやける。私は地面に立っているのだろうか。それさえももうわからない。意識は暗い、闇に吸い込まれて行く。
本当は、骸様が恐かった。恐ろしすぎた。あの冷酷な瞳で見られると、死んじゃうんじゃないかと思う程に。いままで見てきた殺人鬼の誰よりも冷酷で残酷で、美しい骸様が恐かった。私なんかじゃ相手になんかならない。人だとも思われていない。愛されていない。それが寂しく、そして恐怖だった。いつか、壊されるんじゃないか、と。恐怖の中で、私は骸様に従ってきた。
目を開けると暗い灰色の、でも赤みがかっている天井が見えた。窓を見やると雲雀恭弥が居て、少しほっとしてしまう自分が居る。傷が出来ていた所も破った布で縛ってあり、もう出血はない。これも雲雀恭弥がしてくれたのか。そう思うと今までで感じた事のない感情が渦を巻く。
「起きたの?」
「.........はい」
「六道の事はもう良いよ。自分で見つける」
「..................はい」
ああ、現実に戻らなくては。私は雲雀恭弥を捕獲しにきているんだ。この場所が心地いいなんて、そんな感情は、「嘘」。嘘に決まっている。でもそれを揺るがす言葉が雲雀恭弥から発せられる。
「六道についてくのが嫌なら、僕についてこれば良い」
また、涙がこぼれた。なんて嬉しい言葉をかけてくれるのだろうか。雲雀恭弥は笑って言ったのだ。冷酷で残酷な笑みじゃなく、愛する物にかけるような私が長い間望んだ笑みで。私に向けて。
「.........私には、骸様に逆らう事は出来ません」
「僕が奴を倒したら良いんでしょ?」
「骸様は強い。貴方が勝つ可能性など0に等しい」
「馬鹿じゃない?僕は負けないよ」
ふわりと風が髪を撫でる。世界が明るくなる。雲雀恭弥の瞳が明るく光る。それらが私を変える。ああ、骸様。私はこの人について行きたいです。ついて行かなければならないんじゃなく、ついて行きたい。骸様に似た瞳をみるかもしれませんが、 私は......___
この人を愛します。
「わかりました。雲雀恭弥」
「何言ってるの?」
雲雀恭弥が近づく。私は最初のような歯向かう言葉などいわない。いいたくない。また、ふわりと風が髪をなでる。それと同時に、雲雀恭弥と私の唇は繋がっていた。
「君に拒否権なんて、最初からないんだよ」
拒否権なんてない
「そうですね」
「わかってたんなら素直に従えばいい」
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